The World Will Tear Us Apart 『Let's Get Lost』制作ノート - 1.「S.O.S.」

今回からアルバム『Let's Get Lost』収録曲を1曲ごとに語っていきます。

アルバムのオープニングにして先行配信トラック、現時点で我々の最新曲であるこの曲の秘密に迫ってみましょう(?)

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最新曲とは言ったものの、過去のデモ音源を発掘してみると2014年には既にこの曲の原型が存在していたことが判明しました(すでにアルバム制作開始当初の記憶が曖昧)。もともとはアルバムのオープニングとして「Sunday」に繋がるイントロダクション的な小品を想定しており、ドラムループのリズムはサンプリングで作っていました。

↑ジャケットも有名な名盤。ジム・ホールのプレイが最高です。

 

完成版の音源ではサンプリング・クリアランスの問題から本日休演の樋口くんにお願いして元ネタに近いフレーズを叩いてもらっています。正規メンバーにドラマー(富永)がいるのにレコーディングに別のドラマーを呼ぶのはくるりへのリスペクトです。

樋口くんとは大学時代一緒にビッグバンドをやっていたこともあり、スウィングが叩けるドラマーということでの人選です。実際には1ループのために30分くらい叩いてもらったのでめちゃくちゃ贅沢な使い方をさせてもらっています。ありがとう…。ちなみにドラムの音のミックスのみ、その場でレコーディング・エンジニアの小泉さんにやってもらっています。みるみる元ネタに近い音像になっていくので魔法を見ている気分でした…。

 

当初のイメージとしては Sunday に繋がる曲ということで、フィーバーしない土曜日の夜、仮タイトルとして「Saturday Night Chill」 というのがありました。リズム以外にピアノのフレーズのアイデアはあったものの、そこから目立った進捗はないまま放置されることに…。

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時は流れ2018年、The World Will Tear Us Apart は劇団「少女都市」の第3回公演『向井坂良い子と長い呪いの歌』への楽曲提供をさせていただくことに。劇中劇のテーマ曲という位置づけで、脚本・演出の葭本未織さんによる詞にトラックとメロディをつける形となりました。普段のTWWTUAには無い葭本さんの「強い」言葉に導かれるように、谷井さんも「強い」メロディを書いてくれました。

その後、ライブで谷井さんがこの曲のメロディに違う歌詞を載せて Teenage Jesus And Casualties のアウトロで歌っていた時期があったのですが、これをアルバムの冒頭にも持ってくることで統一感が出せるのではないかというひらめきを得て、ようやくこの曲の方向性が見えてきます。

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最初のレコーディング時はまだアルバムのイントロダクション的な小品という位置づけで1分程度だったこの曲ですが、その後谷井さんが追加のメロディと歌詞を書き、追加のレコーディングを行った結果3分半の独立した1曲となりました。

リズムの面では3拍子のシャッフルと4拍子のシャッフルの2つのリズムがポリリズム的に同時進行していくアイデアを試しています。(イントロのトラック・ギターと「歌は途切れて~」のヴォーカルのニュアンスは4拍子、ドラムループと「明かりのない~」「Sing a song~」のヴォーカルのニュアンスは3拍子に近い。)

このあたりのリズム遊びは imdkm氏の記事とツイートに強くインスパイアされています。(その後出版された『リズムから考えるJ-POP史』もオススメです。是非。)(谷井さん曰く途中の歌詞が「リズム、リズム…」なのはたまたまらしい。)

直接の引用元はこの曲です。クラウドベリージャム、好きだ…。


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サウンド面の話ですが、ここまでリリースを引き伸ばしたからには2019年(当初)にリリースする意味を持たせたいという気持ちがあり、デジタルクワイアと Billie Eilsh っぽいトラックに反映されています。(その後リリースまでさらに時間を要したためアイデアの鮮度としては遅きに失した感が否めませんが、結果としてテン年代の総括的なニュアンスは出たのではないでしょうか…。)



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技術的な面の話をするとデジタルクワイアは2通りの作り方をしています。最後の歌おう~の箇所は Waves Ultrapitch でオクターブ上下 を加えた上で Waves Tune Real-Time で上下のハモリを加えて5声(+さらにサブベースを鳴らして厚みを加えている)にしています。歌い出しや Sing A Song~ の箇所は iZotope VocalSynth2 4声でハモらせています。最後のパートを手作業で作ってから VocalSynth2 を買ったのでハーモニーを自動で付け加えてくれる手軽さにびびりました…。

冒頭のリズムトラックと曲を通して鳴っているシンセベースはどちらもフリー音源を使っています。(Studio Linked VST Drum Pro と TAL-NoiseMaker)

どちらも即戦力っぽいプリセットが入っていて愛用しています。

 

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こうして紆余曲折を経て誕生した「S.O.S.」、最もインパクトのある曲ということで先行配信曲となり、無事に皆様のもとに届けられました。めでたしめでたし…。

 

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いちばん骨の折れる曲の記事を書き終えてほっとしています。

次回は我々の代表曲(?)Sunday について書く予定です。