2022年まとめ

昨年末のベストアルバム記事でもその予兆を匂わせていたのですが、今年は完全にK-POPにのめり込んだ1年となりました。上半期は TOMORROW X TOGETHER、下半期は fromis_9 をいちばん聴いていたと思います。今年は IVE、LE SSERAFIM、NewJeans、kep1er などの昨年末〜今年デビュー組が活躍した1年で、K-POPにハマるには絶好のタイミングだったなと思います。K-POPはシングル・EPでのリリースが多いため、結果としてアルバム単位で聴き込んだ作品は数えるほどしかありません…。(そんな中でも Laura day romance の 『roman candles / 憧憬蝋燭』、ASIAN KUNG-FU GENERATION の『プラネットフォークス』はアルバムとして繰り返し聴かせるパワーを持った作品でした。)

そういうわけでベストアルバム記事の代わりにK-POPベスト20曲のプレイリストと良かった楽曲ごちゃ混ぜプレイリスト(順不同)を貼っておきます。よいお年を。

 

 

2021年ベスト・アルバム

1. TOMORROW X TOGETHER - The Chaos Chapter: FIGHT OR ESCAPE

今年一番よく聴いたK-POP。バキバキのK-POPサウンドにロック的なエッセンスが取り入れられていて純朴ロック村(?)出身の私にはガッツリ刺さりました。「韓国が世界に誇るスタジアム・ロック・バンド、TOMORROW X TOGETHER…」と半分冗談半分本気で言ってしまいまいそうです。サブスクで曲だけを聴いていたので個々のメンバーについては全然知らなかったのですが、最近 Youtube のファン作成入門動画でボムギュくんの可愛さを知ってしまったので来年は本格的に沼にハマってしまいそうです。

 

 

2. Official髭男dism - Editorial

バンド名で敬遠していたところ「HELLO EP」で見事に掌返しを決めた私ですが、このアルバムに至ってはもう何も文句のつけようもありません。シリアスな曲も多いアルバムの中で彼らなりのユーモア感覚が炸裂する「ペンディング・マシーン」が良いですね。アカペラを iZotope VocalSynth 2 に通しただけ(!)の1曲目も彼らにしかできない力業って感じで最高です。

 

 

3. Really From - S.T.

こういうエモ(音楽ジャンル)寄りのバンドって普段そんなに聴かないし詳しくもないのですが、トランペットの固定メンバーがいて Jazz / Fusion の要素を感じさせるところが私の好みにばっちりフィットしました。トランペットとニューウェーヴ的なシンセが交錯しつつ胸アツ展開に突入する7曲目がかなり良いです。LPも買ったのですが内袋と盤面にでっかくパンとご飯がプリントされたアートワークが凄いです。

 

 

4. The Killers - Pressure Machine

まさかここに来てあのキラーズが、「自分たちとは何者か」を突き詰めたような超傑作をリリースするとは思ってもみませんでした。スティールギターやマンドリンなどカントリー的な要素がフィーチャーされており、UKニューウェーブに憧れるアメリカのバンドとしての彼ら独自のサウンドがここに完成しています。サウンド的にもコンセプト的にもU2の代表作『The Joshua Tree』を思い起こさせるものがあり、9曲目なんかは「Running To Stand Still」に「Bullet The Blue Sky」をぶち込んだような曲だなと思います。

 

 

5. Weezer - Van Weezer

コロナ禍に伴う長期の発売延期、そしてエディ・ヴァン・ヘイレンの死を経てようやくリリースされたアルバム。TOTO「Africa」カヴァーなんかもあったし今回もネタ要素強めかなと思いきや(もちろん先人へのオマージュは山盛りですが)ストレートにいい曲が並ぶロック・アルバムになっています。ハード・ロックよ永遠に…。

 

6. Stewart Copeland, Ricky Kej - Divine Tides

The Police のドラマーとグラミー賞も受賞しているインドの作曲家との共作アルバム。壮大なサウンドとともに心地よい旅行気分を味わえるアルバムでコロナ禍の閉塞感の中よく聴いていました。スチュワート・コープランドのドラミングもたっぷり楽しめます。

 

 

7. 太陽肛門スパパーン - 「円谷幸吉と人間」

歌謡プログレバンド太陽肛門スパパーンによる反オリンピックアルバム。LPのみでのリリースでした。「悲劇のマラソンランナー円谷幸吉自死することなく1968年メキシコオリンピックBLACK POWER SALUTEに連帯することにより再生、2021東京オリンピックを阻止しに現れる」というコンセプトが凄すぎます。けっきょく東京オリンピックは開催されてしまった訳ですが、最近のニュースを見る限りこのアルバムの持つアクチュアリティはまったく失われていないようです。

 

 

8. girl in red - if i could make it go quiet

音楽作ってる人は他人の作品を聴いて「自分がやりたいたいこと全部先にやられてしまった…」と感じることあると思うんですがまさにこれ。

 

 

9. For Tracy Hyde - Ethernity

本当に日本のシューゲイズ・ギター ポップシーンを牽引する存在となってしまった For Tracy Hyde の4枚目のアルバム。 「アメリカ」をコンセプトに据えたリリックとオルタナグランジに接近したサウンドに必然的な結びつきを持たせる芸当は流石。最終曲のトラップ・ビートには驚かされますがこれは90年代のアメリカから現在のアメリカへの接続を試みているのだと解釈しています。

 

 

10. Inhaler - It Won't Always Be Lile This

ボーカルがボノの息子、という決まり文句もそろそろ必要なくなってきた彼らのファースト・アルバム。「My Honest Face」での1,2,3,4...のアレンジや My Generation みたいなスタッター・ボーカルは相当の度胸がないとできないやつですね。アイルランド・ダブリンのポスト・パンク・シーンは本当に充実しています。

 

 

ランクに入らなかったけど良かったもの
Orchestre Tout Puissant Marcel Duchamp - We're OK. But We're Lost Anyway

Wednesday - Twin Plagues

Squid -Bright Green Field

 

 

アルバムという括りだと漏れちゃう曲も多いですね。2021年良かったものをぶちこんだプレイリストはこちら。

 

 

よいお年を。

佐々木伶『ワンマンライフ』プロダクション・ノート

佐々木伶のファースト・アルバム『ワンマンライフ』のプロデュースを担当しました。

アルバム特設サイト 

配信サイト一覧

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制作期間:2019年秋〜2021年春

当初は佐々木宅に私が録音機材一式を持ち込む形で出張宅録を行っていましたが、新型コロナウイルスの影響によりリモート環境での制作に移行。大阪〜京都間でデータのやりとりを行いながら制作を進めました。リモート環境によってかえって作業が効率化され気づけば1枚組30曲のボリュームに。

大部分の曲はアルバム制作以前の佐々木さん自身による宅録MTR音源が存在しています。アルバム版と聞き比べるの面白いと思うのでリンクを貼っておきます。

 

1. 私は選ばれない

2019年秋、最初のレコーディングセッションで取り組んだ2曲のうちの1曲。当初はその場でレコーディングからミックスまで半日で完了させるという縛りで取り組んでいました。このアルバムのピアノの音はすべて佐々木さん宅の Roland の電子ピアノを使用しているのですが、流石は日本が世界に誇るローランド、良い音です。”ラベルなんかじゃごまかせない” のスネアロールの音はその場の機転で佐々木さんが雑誌を叩いた音にディストーションをかけて錬成しました。ラベルとラヴェル(のボレロ)を掛けているらしいです。動物の声はムツゴロウ感を演出するためにフリー素材を集めました。

 

2. 期待しない

前曲に続きピアノ弾き語り中心の曲です。「私は選ばれない」〜「期待しない」という佐々木さんのライブにおける定番の流れを『Sgt Pepper's Lonely Hearts Club Band』ふうに再現しています。佐々木さんのピアノはクラシック色が強いのが特徴ですね。

 

3. 結局行き先はソウル

佐々木さんのデモ段階ではエレキギターの弾き語り曲でした。当初は嵐の「A・RA・SHI」っぽい J-POP フィーリングを目指していたのですが、歌詞の内容や当時聴いていた音楽の影響から K-POP 寄りのアレンジになっていきました。(Aメロがワンコードになっているのは嵐に接近しようとした名残です。)

Bメロでビルドアップ・2番でトラップぽくなる・サビ頭でブレイク等の一度はやってみたいベタ展開を詰め込めたのでかなり満足感があります。

2番Aメロの佐々木さんによるスタジオミュージシャンっぽいギターもお気に入りです。

ラストサビ前の展開は弾き語りデモの段階から存在するのですが、アルバム版では急に謎のハードコアバンドが乱入してくるイメージで解釈しました。

リード・シングル的な曲でMVも私が作ったので見てください。(人生初ミュージックビデオ制作)

 

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4. 上下水道完備

ピアノの弾き語り曲をフェイク・ジャズにアレンジしています。ピアノ以外は打ち込みです。BFD3(ドラム音源)のブラシの音がとても良くて気に入ってしまったので The World Will Tear Us Apart の新作でも使いました。Trilian(ベース音源)のウッドベースの音もかなりイケてます。私はかつてジャズ・ビッグ・バンドに所属していたことがあるのですが、その経験が活かされているのかどうかはよく分かりません。いつか生バンド(佐々木伶カルテット?)での演奏を見てみたいです。

 

5. 初めてのスタンプ

こちらもピアノの弾き語り曲です。ミスチルのバラード曲のような J-POP 感を目指しました。(ミスチル的な展開をやるには佐々木さんの曲は短かすぎるという問題がありましたが…。)

アルバムの中ではいちばん多く楽器を弾きました。(エレキギター・アコギ・エレキベース。)この曲のAメロみたいなハネるベースラインが好きです。ラストサビのリードギターは佐々木さん。

 

6. 近江舞子

この曲は佐々木さんのMTR宅録デモ段階でほぼアレンジが固まっていました。アルバム版でもギター・ベースはすべて佐々木さんの演奏です。MTRデモでサビ前にメトロノームの音が入っているのがあまりにもクールすぎたのでそのまま本アレンジに採用しました。佐々木さんは重度のベンジー・ファンなのですがこの曲は最も露骨にブランキーを感じる1曲です。このアルバムの佐々木さんのエレキギターサウンドはすべてライン録音のデータにアンプシミュレータを後がけしています。

 

7. 待ちぼうけ

脳内での問答というコンセプトを再現すべく、ローファイでサイケデリックな感じになりました。スプリングリバーブ、好きです。こういった小品にこそ佐々木さんの真髄があるような気もします。

 

8. 鶏を食べてワイン飲む

2019年のクリスマス・シングルとしてリリースされた曲です。イントロのエレクトリック・シタールの音は エレクトロ・ハーモニクス社のエフェクターエレキギターに繋いで録音しています。その他のギターはすべて佐々木さん。ベースは私が弾いています。後半から鳴っている鈴は佐々木さんがこの曲のためにわざわざ購入したもので、なんとも言えない味わいがあります。

 

9. 目的意識

前曲に登場する「20日の街コン」の戦況報告ソング。佐々木さんのギターとピアノの演奏に私がアコースティックな質感のトラックをつけました。これもわりとレコーディング初期の曲でしばらく仮ミックスのまま眠っていたのですが、ある日突然「アシッドベースを入れよ」という啓示を受けたためこのような形になりました。良いですよね、アシッドベース。 

 

10. 覆水盆に返らず

佐々木さんによるピアノソロ曲。不穏な空気感と意味深なタイトルがよいですね。こういった小品が挟まれることでアルバムのアクセントになっていますね。

 

11. チャミスル

個人的推し曲です。ギターとベースのアレンジは佐々木さんのデモ段階でほぼ固まっており、私はリズムトラックを付け加えました。サビのストリングスは佐々木さんの Roland の電子ピアノに入っている音色なのですが、絶妙な胡散臭さがたまりません。ラストサビで謎に四つ打ちになる展開がお気に入りです。チャミスルのCMソングになってほしいです。

 

12. ほぼ宦官

佐々木さんのピアノ弾き語りに歴史ものの映画音楽のイメージで大仰なマーチングとオーケストラを加えました。デモでかかっているサビのダブリング?が面白すぎたのでアルバム版でも再現しています。

 

13. 春は来る

2020年の春に『春は来る EP』としてリリースした曲のアルバム版です。この曲もギターとベースのアレンジはデモ段階で固まっていました。よく聴くと実はツイン・ドラムです。(どちらも打ち込みですが。)短調になる部分で歌詞もダウナーに入るのが作曲のお手本みたいで良いです。

 

14. Flying

これは佐々木さんによるMTR録音のテイクがあまりにも神がかっていたので、音質の微調整のみ行いそのまま収録しています。ファースト・テイクの奇跡ってあるんですね。 

 

15. 人間が怖い

佐々木さんのビリージョエル方式による一人多重録音合唱曲。第一部の締めくくりはこの曲しかないと思いました。

 

16. 私は選ばれない - reprise

大作アルバムにありがちな展開ということで1曲目のメロディを再登場させ、色んな音色で鳴らしてツギハギしています。こういうの作るのがいちばん楽しいです。佐々木さんの曲はメロディに普遍的なポップさがあるのでどんな音色でもいけますね。

 

17. Beautiful Organic Life

「私は選ばれない」と同じ最初のレコーディングセッションで録音した曲です。まずギターとラップを録音し、その場でトラックをつけました。「カスピ海」のところで私の声がちょっとだけ入っています。ロハス・エコ・リサイクルのリフレインが呪術的ですね。 アウトロのスクラッチもどきは midi コントローラーでリアルタイムに演奏できるシステムを組んだのでいつかライブで再現したいです。

 

18. 総量

この曲は佐々木さんによるガットギターの弾き語りほぼそのまんまです。アウトロのピアノとオルガンのユニゾンが良いですね。

 

19. 令和

当初はコード進行から Underworld をイメージしていたのですが最終的には何とも形容し難い展開になってしまいました。何なんでしょうかこれは。Ableton Live にはオーディオ・データを midi に変換してくれる機能があるのですが、微妙に検出の精度が悪くてそれが絶妙な味わいを生むんですよね。ここではガットギターのリフをmidiに変換してエレピで鳴らしたものを重ねています。

 

20. 小指が痛い

佐々木さんのガットギター・ソロによるインスト曲。サウンドクラウドにアップされていたデモが良かったのでアルバムへの収録を提案しました。一発録音で録り直してもらっています。意味深なタイトルも相まってなんか泣けます。

 

21. Pコート

全曲からガットギター繋がり。原曲のフリーテンポの弾き語りの感じを活かしつつ中間部の不穏な感じを演出しています。佐々木さんの詞は状況描写から急に内省に突入するパターンが多いですね。

 

22. 実在確認

これも佐々木さんによる宅録MTR音源をそのまま採用しています。KORGMTR、内蔵マイクのためかマスタリング・エフェクトのためか分からないんですが独特な質感になるのがいいなと思います。

 

23. 僕に女性を紹介しないで

「鶏を食べてワイン飲む」と共に両A面クリスマス・シングルとしてリリースした曲です。トラップ・ミーツ・ベンジー的な様相を呈しています。キックやハイハットにピッチをつけるやつを練習しているうちに完成しました。

 

24. せめて

原曲はエレキギターの弾き語りでしたが、次曲でポエトリーリーディングを提供している植林さんの発言によりこの曲はレディオヘッドだということが判明。限界までそっちに寄せてますが最後にトムヨークが絶対やらなさそうなラップが登場するのがウケます。

 

25. 鳥見山

サークル時代の先輩、植林望氏によるポエトリー・リーディング曲。シンガーソングライターのデビューアルバムでいきなり知らない人がポエトリーリーディングを始めるの面白いです。

 

26. 暇でもそれはやりたくない

コロナ禍によってリモート制作を強いられ MacBook Pro と Logic を導入した佐々木さんによる初期衝動炸裂DTM作品。私は音質の微調整以外は何もしてません。どんな楽器を触らせても結局佐々木さんの感じに収束するのがすごいですね。

 

27. 神様

ガットギター弾き語り音源に Ableton Live のサンプル素材を組み合わせていたら原型が出来ました。サビのハモリはかのOfficial髭男dism も愛用している iZotope VocalSynth2 で作っています。

 

28. Work

佐々木さんによるギターのループ主体の曲。後半バンドっぽくなるのは佐々木さんのデモ段階から存在するアレンジです。エレキベースは私が弾いています。ラストサビのオルガンが良いですね。(これも Roland のエレピに入ってる音です。)

 

29. PL法

これはほぼピアノの弾き語りのままですが、リリックに沿ってアウトロでうっすら工場の音を入れています。工場 音 素材 とかで検索すると謎の工場のサウンドがたくさん聴けて楽しかったです。アルバムの曲順の大枠は私が考えたのですが、とくにこの曲から最終曲の流れは泣ける感じで好きです。

 

30.それだけじゃダメですか

三線の録音とミックスがとにかく大変でした。このアルバムで多用されているガットギターもそうですが、非バンド系の楽器の録音はノイズとの戦いです。バンドサウンドくるりの「東京」のような感じを目指しています。ギターはすべて佐々木さん、ベースは私が弾いています。

 

The World Will Tear Us Apart 『Let's Get Lost』制作ノート - 10.「HAPPYEND」

1年以上にわたりのんびりやってきたアルバム全曲解説シリーズもついに最終曲です。

 

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HAPPYENDはアルバム収録曲の中では最も古い曲で、この曲の前身は2009年の結成当初から演奏していた「君時雨」という曲です。現在の我々のループ主体な作風とは真逆のやたら展開の多いプログレ曲でした。

 

2011年ごろ、バンドの方向性がポップ路線にシフトしていく中で「君時雨」のリフをリサイクルする形で「HAPPYEND」が誕生します。その前に「She Prays」というタイトルだった時期もあった気がしますがもはや思い出せません。この頃から昔の曲をこねくりまわしていたんですね。

 

國府さん加入後はコーラスが加わり SUPERCAR っぽさが増します。ちなみに國府さん加入時に試しにスタジオで合わせた曲は SUPERCAR の FAIRWAY と Pixies の Gigantic でした。

 

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國府さんがギターを弾いている時代のレア動画(もともとはギター/コーラス担当として加入してもらったのでした…。)

 

この時のアレンジに近い形でバンド初のレコーディングを行い、ファースト・シングルとしてリリースすることになります。当時流行っていた(?)ダウンロード・コード付ステッカーという形でライブ会場で販売していました。ミキシングは富永。ライブではドラムセットを叩いていましたが音源は打ち込みのドラムになっておりその後の方向性を予感させます。よく聞くとグロッケンの音も入っていますね。

 

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サビのドロップDチューニングのギターリフは Smashing Pumpkins の影響だった気がします。イントロのフレーズが最後のサビで戻ってくる展開は好きなのでよくやってしまいます

 

 その後、ドラムレス・ベースレスの編成でライブを行うようになった際に、BPMを落とした浮遊感のあるアレンジになりました(アルバム版とも別の、ややシューゲイザー寄りのアレンジ) 。

 

アルバム版では最終曲ということで他の収録曲とはやや雰囲気の違う曲調となっています(S.O.S. 〜 Teenage Jesus and Casualties がひとつのループで HAPPYEND はその外側のイメージ)。直接のレファレンスは『Paracosm』期の Washed Out で、チルウェイヴの逃避的なイメージはアルバムタイトル『Let's Get Lost』にも繋がっています。歌詞もシングル版から一部変更されてアルバムの締め括りに相応しいものになっています。

 

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このバージョンはリズムトラックを富永がアナログリズムマシンで打ち込み、それをベースに私がデモを作りアレンジを固めました。スティール・パンは打ち込みではなく小型のパンを國府さんが叩いた生音を録音しています。イントロから鳴っているパッドのような音は Future No Future と同じくギターのコードストロークDAW上でピッチ・シフトと深いリヴァーヴ、フィルターをかけて作っています。

サックスは 吉本“レッサー”顕之 くん。メインのフレーズはシングル版でエレキベースが弾いていたフレーズをなぞっています。サビの裏メロとアウトロのソロは完全にレッサーくんのアドリブで、ソロの途中でフェードアウトさせる贅沢な使い方をさせてもらっています。(実際には倍くらいの尺で吹いてもらってます。)彼のサックスなくしてはこの曲もアルバムも完成しなかったでしょう…。

 

 

レッサーくんにはライブでも一度サポートで参加してもらい、サックス入りの Teenage や S.O.S. も素晴らしい出来だったのですが、録音が残っていないことが悔やまれるのでいつかリベンジしたいです。

 

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アルバム全曲解説、最後までお付き合いいただきありがとうございました。リリースから1年以上が経過した今もコロナ禍でツアーが行えず満足にプロモーションが行えないもどかしさもありますが、この記事が『Let's Get Lost』を楽しむきっかけになると嬉しいです。

 

現在 The World Will Tear Us Apart は新曲を制作中です。相変わらずマイペースな活動ではありますが、今後の動向もチェックしていただけますと幸いです。それでは。

 

 

The World Will Tear Us Apart 『Let's Get Lost』制作ノート - 9.「Teenage Jesus and Casualties」

更新が滞っている間に『Let's Get Lost』はリリース(2019年12月25日)1周年を迎えました。聴いてくださった皆さま、ありがとうございます。

今回はアルバムの核となる曲、Teenage Jesus and Casualties について。

タイトルは「Teenage Jesus and the Jerks」+「TEENAGE CASUALTIES」だと思うのですが詳しくは谷井さんに訊いてください。

 

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この曲も Chill in the Rain と同時期の2012年頃、シンセ+Ableton Live のループという編成での曲作りを試みていた時期の曲です。

 

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谷井さんが microKORG を弾いている初期のライブ。ちなみに今回のアルバムにおいては古めの曲のシンセの音色は microKORG および microKORG XL の音であることが多いです。

 

この曲の話からは外れますが、ドラムレス編成以前の時期の楽曲としてバンド編成でループ的な構成を試み始めた「Goodnight」が存在します。TWWTUAのターニングポイント的な曲です。この頃から私のギターフレーズもだんだんミニマルになっていきます。

 

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この時期は谷井さんがヒップホップ/インディR&Bに傾倒していった時期でもあり、特にこの曲には明確に元ネタがあります。

 

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この曲は2012年リリースのファースト・シングル『HAPPYEND』のカップリングとしてレコーディングが進んでいましたが、シングルのリリースには間に合わず、その後2013年リリースのEPのタイトルトラックとして日の目を見ることになります。ミックス・マスタリングは有村くん(in the blue shirts)。ジャケットはアルバムでも引き続きアートワークを担当してくれた高石瑞希さん。

 

 

イントロ・アウトロの車が通り過ぎる音は富永によるフィールド・レコーディングです。同じ音を逆再生したものを 「S.O.S.」 の後半でも鳴らしています。

徐々にピッチが狂っていくリード・ギターはこの曲のピアノを模したものだった気がします。(EP版は分かりにくかったのでアルバム版ではもう少し激しく揺らしてます。)


 

アルバム版では S.O.S. 〜 Teenage Jesus and Casualties でループするイメージで、アウトロに同じフレーズ(「歌は途切れて…」)が挿入されています。また、ライブ・アレンジを反映して谷井さんのリズム・ギターが入っています。When She Sleep の記事にも書きましたが谷井さんのギターが入ると一気にインディみが増しますね。あとは鉄琴が生音になっていること(國府さんが叩いている)、サビでオートチューンを派手目にかけていること、2番ヴァースで富永がライブでもかけているエフェクトをトラックにかけていることなどがアレンジ面での変化点です。

 

アルバム解説シリーズも残すところあと1曲となりました。次回は最終曲、HAPPYENDについて。

 

 

2020年ベストアルバム10

 

1. HA:TFELT『1719』

今年の1月末(!)に人生初の韓国旅行に行ってから今まで以上に K-POPを聴くようになりました。次に行けるのはいつになることやら…。

元 Wonder Girls メンバーのソロ名義ファースト・アルバム。自伝的なリリックとクールなギター・サウンドが今年の気分にマッチして一番よく聴きました。

 

2. Silverbacks『Fad』

U2ファンとしては「アイルランド・ダブリンのポストパンクバンド」というだけで贔屓目に見てしまうのですが、それ抜きにしてもこれは最高。飄々としていながら時に爆発するサウンドにやられました。

 

3. Moment Joon『Passport & Garcon』

“移民者”ラッパー Moment Joon 待望のファースト・アルバム。数行で語るにはこのアルバムが扱っているものは重すぎますが…パーソナルなテーマとソーシャルなテーマが表裏一体になった見事な作品。(でもこの作品に限った話ではなく「個人的なことは社会的なこと」なんですよね…。)とにかく広く聴かれてほしいです。

 

4. Braids 『Shadow Offering』

バンド・サウンドとエレクトロニクスのバランスが絶妙なアルバム。Ableton Live 付属の Operator(ソフトウェア・シンセサイザー)を一つの楽器のように扱っているのが面白く、アルバムのサウンドに統一感を与えています。9分間におよぶ 「Snow Angels」 は現代に生きる女性としての苦悩と混乱をそのまま吐露したような大作。

 

5. End of the World 『Chameleon』

SEKAI NO OWARI のグローバル展開名義による待望のファーストアルバム。この名義での活動は2013年からスタートしており全編英語詞アルバムの話も以前からありましたが、リリースに至るまではかなり紆余曲折があったようです。

セカオワ名義と比べて洗練されたサウンド・楽曲でありながら、冒頭「Airplane」のピアノ+TB-303ベースシンセに代表されるように『Lip』『Eye』までのセカオワ的なシグネチャー・サウンドが要所要所に散りばめられているのが嬉しいです。

 

6. Charli XCX『how i'm feeling now』

自主隔離環境のもと短期間で制作されたという本作。「anthems」はまさにコロナ禍におけるアンセム。 "Finally, when it's over / We might be even closer" ←ほんまそれな…。

 

7. V.A. 『tiny pop - here's that tiny days』

フィジカル版と配信版で収録曲が違います。)

tiny pop についてはこちらの記事が詳しいのでご一読を。

帯やブックレット含むアートワーク、ライナーノーツ、各アーティスト数曲ずつの収録という形式など、プレイリスト戦国時代(?)においてコンピレーションCDという形態の魅力を思い出させてくれる作品でした。

The World Will Tear Us Apart - Future No Future(New Age Mix)はこのアルバム収録の Feather Shuttles Forever や wai wai music resort に影響された部分が大きいです。

 

8. リーガルリリー『bedtime story』

リーガルリリー、ふわっとしたボーカルのギターポップバンドというイメージしかなかったのですが、このアルバムのサウンドとリリックのヘヴィさに打ちのめされて完全にイメージが変わりました。「ハナヒカリ」はとても美しい反戦歌。(と、捉えてもいいのでしょうか…?)

 

9. サニーデイ・サービス『いいね!』

バンドってええよね…。

 

10. ステレオガール『Pink Fog』

昨年末に Superfriends で共演して以来好きになったバンド。練り上げられたバンドアンサンブルと寄り添いすぎず突き放しすぎないちょうどいい距離感のリリックにハマりました。

 

The World Will Tear Us Apart 『Let's Get Lost』制作ノート - 8.「September Song」

アルバム解説シリーズも終盤に差し掛かってまいりました。本日はアルバムの中でもシングル曲っぽさのある「September Song」についてです。

 

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この曲はアルバムの中では比較的新しい(とはいえ5年ほど前の)曲です。谷井さんがコード+メロディのデモを持ってきて富永がビートとシンセのループを打ち込みました。(参照した元ネタの曲があった気がするけど思い出せません…。)きらびやかなシンセのウワモノとサイドチェインのかかったベースがこの曲のキャラクターを決定しています。

 

この曲は2015年の東京初ライブにて初披露されました。谷井さんのエモMCつき。この曲から Teenage Jesus and Casualties に繋がる流れはこのあとのライブでも何度かやっていて、アルバムの曲順でも(シームレスな繋ぎではないものの)踏襲しています。注意深く聴いていただくと富永のコーラスに共通のリズムが用いられていることに気づくかもしれません。

 

 

その後、1年後の9月に SoundCloud にて音源をリリースしています。こちらはサークルの部室でレコーディングしたヴァージョンです。この頃はほぼ Ableton live 付属のプラグインのみでミックスをやっていました。エレキギターはすべてライン録音+アンプシミュレータなのでアルバム版(アンプをマイク録り)と聴き比べていただくと面白いかもしれません。

イントロのギターでは押さえたフレットの12フレット上の位置に触れながらハーモニクスを鳴らすタッチ・ハーモニクスという地味なテクニックを用いています。これはポリスのアンディ・サマーズの影響です。 

 

 

 
アルバム版はトラック以外はすべて新録のヴァージョンとなっています。ハイハットの刻みを無くした代わりにギターのブラッシングとハンドクラップの音を加えてよりフィジカルな感じが増していると思います。生のハンドクラップとリズムマシンのハンドクラップがそれぞれイントロと間奏で別々に登場して、ラストサビで合流するところがミソです。(複数パターンのハンドクラップを同時に鳴らすアイデア欅坂46サイレントマジョリティー」についてTwitterかブログで誰かが言及しているのを見てアイデアのみ拝借しました。元ネタをちゃんと聴かずにパクる、それが俺のやり方…。)
イントロのブレイクでアコギにがっつりフィルターがかかるのは Avicii を意識しました。2020年に Avicii オマージュをやる味わい深さを感じてほしいです(?)(R.I.P. Avicii...)。
 
この曲での私のエレキギターは完全にU2芸人と化しています。西日本で最もジ・エッジに肉薄しているギタリストとしての自負があるのでトリビュート・バンドのお誘いなどお待ちしております。
↓2:43からのフレーズをまんま拝借しています。 
 
アコギによるコードストロークは谷井さんによるものですが谷井さんはこういうビート感のあるバッキングが非常に上手いです。
 
リリース後、Mabase Records 前田くんによるMVが公開されました。こちらからのオーダーとしては敢えて前田くんの得意としていた「高校生」や「海」といったモチーフから離れたものをお願いしたのですが、結果的に素晴らしいビデオを作ってもらえて本当に良かったです(最終的に琵琶湖に行きますが…笑)。キャスティングにも紆余曲折あり、最終的に colormalエナガくんとまさかの監督兼主演前田くんが友情コンビを演じて(?)くれました。関係性に萌えてください。Transit My Youth(一時期サポートギタリストをやっていた) のビデオなどでおなじみの湊川萌さんに撮影・演出で参加してもらえたのも嬉しかったです。
 
そして今年の9月にはオルタナティヴ・バージョンとして「September Song (automatic sessions)」がリリースされました。これは延期になってしまったレコ発京都編からライブに参加予定だったミチルさん(from Labit Room)をボーカル/トランペットに迎え制作した音源です。私はマンドリンを頑張り、ドラムはソフトウェア音源(BFD3)の打ち込みと富永が叩いた生音をミックスしています。automatic sessions というタイトルは Spotify Sessions に呼ばれないので勝手に自分たちでやろう、というコンセプトから来ています。TWWTUAは2020年11月現在、この曲を含むEPを鋭意製作中です。
 
 次回は Teenage Jesus and Casualties についてです。